1999年4月28日
武蔵野女子大学 現代社会学部 潮木守一
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ホームページ「シルバーパソコン体験教室の記録」に入れます。武蔵野女子大学情報教育センターでは、去る3月29,30,31日、4月1日の4日間にわたって、シルバー・パソコン体験教室を開催した。近隣に住む60歳以上の方々を対象に、パソコンを直接体験する機会を提供しようというのが、その狙いであった。お蔭様で4日間を通じて、91名のシルバーの方々が参加してくださった。またこれらシルバーの方々を木目細かく指導してくれるパソコン・ボランティアを学内で募集したところ、現代社会学部を中心に、人間関係学科、日本文学科の学生諸君21名が応募してくれた。彼女等は全期間中、良きアシスタントとして、大活躍をしてくれた。彼女等の大部分は一年前にはパソコンのパの字さえ知らなかった。しかしそのフットワーク軽快なアシスタントぶりは、過去一年間の学習成果を雄弁に物語っていた。
集まってくださったシルバーの方々は、85歳を最高年齢として、平均67歳であった。保谷市、田無市、武蔵野市在住の方が多かったが、なかには2時間かけて、我が大学まできてくださった遠方(葛飾区、浦和市)からの参加者もあった。自宅にパソコンがあるという方は、全体の3分の1ほどでいたが、それはほとんど子供、孫世代用のもので、大部分の方々がパソコンに触るのは、これが始めてであった。ちなみに男女構成はほぼ半々というところであった。
当日、体験して頂いたのは、まずパソコンのスイッチの入れ方、マウスの使い方、画面のスクロールのしかた、キーボードの使い方といった基本操作から始まって、ペイントを使ったお絵かき(その絵はいったん記憶させておいて、後でカードに書き写したり、メールに添付して他の人に送ったりするときに利用した)、ワープロ、ホームページの見方、メールの発信、受信など、朝10時にスタートして、午後3時までの4時間(途中1時間ほどの昼食時間を入れた)でこなすには、盛りだくさんと思えるほどのメニューであった。
志村さん、信永さんなど、情報教育センター・スタッフの説明を中心に、参加者2名当たり1名の学生ボランティアがつき、この学生ボランティアが文字通り、手足を取るように、きめの細かい指導してくれた。
もともとこの体験教室のモデルとなったのは、アメリカでのCompuMentorの活動である。アメリカでは急速な情報化の進展のなかで、それについてゆけない「コンピュータ難民」の大量発生が社会的な問題となった。あらゆる文明の利器がそうであるように、それをいち早くマスターした者にとっては、文明社会とは便利なものだが、それとは逆に、それについて行けない者にとっては、きわめて不便な社会になってしまう。情報化社会、パソコン社会もまったく同様で、一方では便利になっても、その裏ではついてゆけないで困る人が大量に生産される。果たしてこの傾向をそのまま放置していてよいのか、という声が高まった。
その時、こうした情報格差解消を目指して手を挙げたのが、ほかならぬ大学であった。大学は最先端の情報技術を追求するだけでなく、社会全般のパソコン・スキル向上のために、その社会的責任を果たすべきだとする声が沸きあがった。こうした声を受けて、各地の大学でまず学生がリーダーシップをとって、地域社会のためにボランティア活動を展開しはじめた。
いいかえればパソコン操作を習得した大学生達が、そのスキルを世間にために役立てようというのがこの活動の趣旨である。だからコンピュメンターが対象とするのは、もともと予算の乏しいNGO、NPOとか学校といった非営利団体であり、障害者とか高齢者といった人々でる。こういう団体・個人は経済力が伴わないために、放置しておけば、どんどん情報化の流れに取り残されてしまう。しかし、NGO、NPOといった組織は、支援者の名簿作成、名簿訂正、会費納入状況のチェック、会員との通信・連絡という具合に、場合によっては営利企業以上に、情報技術を駆使しなければならない。これが営利団体であれば、高い市場価格を支払ってでも、必要な機材、スキルを調達できるが、NGO,NPOにはそれができない。そこでこのコンピュメンターというボランティア組織が、ボランティアからの協力をもとに、市場価格以下の価格でサービスを提供することになったたわけである。このあたりの情報は、たとえば仙台の河北新報社から発信されている
「キーワードは情報ボランティア」(http://www.kahoku.co.jp/staff/joho/joho.htm)が参考になる。アメリカのコンピュメンターは現在サンフランシスコに拠点をおき、23名の専任スタッフのもとで、年間運営経費総額1億4千万ドルの規模の活動を行っていると報告されている。しかし23名のスタッフだけですべての活動がこなせるわけではなく、活動の主力は約4000名といわれる登録パソコン・ボランティアにあることはいうまでもない。
この組織から参考にすべき点が多くある。まずこの組織にボランティアとして登録するためには、希望者はインターネットを使ってホームページにいろいろな事項に記入しなければならない。しかも記入項目が多く、全部書き終えるのに約30分ほどかかるという。これほど多くの項目に答えさせるのは、そう安易な気持ちでは登録できないようにするためである。あえてこういった「意地の悪い」方法を使うのは、それだけ意志の固いボランティアを集めるためである。もちろん記入項目を多くするのは、明確な意思を持ったボランティアを集めるためばかりでなく、こうして答えられたデータは自動的にデータベース化され、派遣要請にもっとも近いボランティアを探し出すために使われることになる。
こうしたアメリカでのCompuMentorの活動は、数年前から日本でも紹介されてきたが、それにひきかえ日本の大学の反応はそれほど良かったとはいえない。しかし、大きく見れば、まずパソコン・スキルを習得するのは大学生であり、その彼等・彼女等が情報スキル格差縮小にどれだけ関心を持つかによって、今後の社会全体としての情報環境は大きく変わる。また逆からみれば、彼等・彼女等のパソコン・スキルとボランティア意欲をどれだけ動員できるかによって、我々の情報環境は大きく異なってくる。
今回ボランティアに応募してくれた学生諸君は、いずれも「他人の教えてみて、はじめて自分の知識を確実なものにすることができた」と語っていたが、この体験教室から一番多くを学んだのは、シルバーよりも、学生ボランティア自身だったことになる。彼女等のほとんどは、この武蔵野女子大学に入って始めてパソコンに触れたのであり、そのパソコン歴はたった1年にしかならない。その彼女等が、まったくパソコンに触れたことのないシルバー受講生を対象に、手取り足取りして指導して獲得した体験は、またとない経験になったはずである。実をいえば、私自身学生諸君がここまで活躍してくれるとは想像もしていなかった。武蔵野女子大学の底力を示す一面と理解すべきであろう。
しかし、ここで立場を代えて、学生諸君自身の立場に立った場合、朝9時頃から午後4時頃まで、3日間、あるいは4日間まるまるつぶされるのは、まったく抵抗のないことなのであろうか。いくらボランティアとはいえ、無償で労力を提供することには、まったく心理的抵抗がないのであろうか。とくに万事を金銭に置き換えることが当たり前となっている現代にあって、こうした無償奉仕は果たして長続きするものであろうか。因みに彼女等の逸失賃金(パソコン・ボランティアをせず、その時間だけアルバイトをした時に得られたであろう賃金)は、3日で約24,000円、4日で約32,000円となる。人間はどこかに無理のあることは、長続づきしないのは真理の一面であるが、この活動がさらに継続することを期待する声は大きい。