D.T.
セイモア著「大学個性化の戦略」玉川大学出版部。2000年6月。A5版、290頁。著者ダニエル・セイモアは、大学とビジネスの世界をまたがって生きてきたキャリアを持っている。つまり、現在はカリフォルニア州のパームスプリングにあるコンサルタント会社
Qシステムズの社長であるが、以前にはウィリアム・アンド・メリー大学、ドードアイランド大学、カリフォルニア大学ロサンジェルス校などで教鞭をとり、各地の大学の管理職を経験してきている。本書にはこうした著者の経歴が反映されている。まず現代の大学が直面しているのは、「私は私が払ったお金にみあったものを得ているのか」という学生消費者からの問いかけである。しかしこれは決して大学だけに対して発しられている問いではなく、医療サービスに対しても同様な問いかけが発せられている。なぜこの現代で期せずして医療と高等教育に対して、消費者からこのような説明を求める声が高まったかというと、それは医師も大学教員も、これまでは自立した専門職集団として、医療や教育サービスの品質を自分で定義し、判断し、提供することを伝統的に認められてきたが、この現代ではそれが揺らぎだしたからである。たとえば、この患者にはどのような医療が必要なのかを、誰かに問う医師はいない。彼は専門職としての判断で、何が必要な医療かを決め、患者は医師を信頼して費用を支払ってきた。ところが現代では違う。患者は自分が支払ったものに見合うだけの医療サービスを受けたのかどうか、その説明を求める。見合っただけの医療サービスが提供されているか否かを、外的な統制機関を使って監視しようとする。大学の場合も同じで、学生、両親、納税者は、それぞれの立場で、支払っただけの教育サービスが提供されているか否かを監視しようとしている。
他方、大学はどのような状態にあるかというと「学生は学位をとるためにだけ単位を集めている。教師は自分のことを研究者だと思っている。管理者は自分の役割は取り締まりだと思っている。それぞれがバラバラな方向を目指していて、そこには共同の事業に属しているという感覚が欠けている」。彼はこうした現象を「鳩の巣穴化」と形容している。こうした統合性の欠如こそが現代の大学の病理であり、著者のセイモアは、これを「特定の方向に動かす、単一の組織力学があるという、絶対的確信をもっている」と断言している。それではその「単一の組織力学」とは何かと問うと、彼は「それはシナジー(共同作用)である」と答える。それではそれはいかにして実現できるかという問うと、彼は次のような「一般的哲学的原理」を取り出す。たとえば、「高品質とは顧客の要求に適合し、それを越えることである」「高品質はすべての人の職務である」「高品質は不断の改善である」「高品質とはリーダーシップである」「組織の指導者は、品質の絶えざる改善の過程を通じての顧客の満足は、組織の全構成員の責任であるというメッセージを、言葉と行動によって伝えなければならない」「高品質とは人的資源開発である」などなど。このような「一般的哲学的原理」では、あまりも抽象的すぎて、読者には分からない。そこで本書では大学教育の品質向上に取り組んだ事例が紹介されているので、後は読者自らが読み取って頂きたい。