フィリピンでの植林ボランティア活動への参加

現代社会学部長 潮木守一

(この原稿は武蔵野女子大学「教学運営ニュース」No.17

1998年 7/15, 8/15合併号に載せたものです)


 現代社会学部の目標の一つに、ボランティア活動への積極的参加という目標があります。学生時代に何らかのボランティア活動に参加し、社会のために無償で働くことがどのような意味を持つのかを、自分の体験を通じて理解してもらうことが、そのねらいです。「どうせ無償で奉仕しているのだから、いやになったらいつでもやめればよい」こんな心構えでボランティア活動に参加する人がよくいます。しかし、いかなる組織といえども一定の計画のもとにすべての活動が進められています。土壇場になって予定のボランティアが現れず、大幅に計画が狂ったといった経験を、多くのボランティア活動は持っています。

 またその時間だけよそでアルバイトをすれば、何がしかの報酬がえられるのに、無償で働くのですから、「働いているうちに馬鹿らしくなった」と語るボランティア経験者は多くいます。この現代社会では対価を求めずに働くことには、我々の内面、外部にさまざまな障壁、障害があります。そこで、あえてそういう経験をすることを通じて、自分の心が自分に対して何を語りかけるのか、耳をすまして聞き取ってもらいたい、これが我々のひそかな期待です。

 現代社会学部の構想を練る段階から、日本フィリピンボランティア協会との連携が話題となっておりました。このNGOは長年、フィリピンで植林活動、地域医療、生活水準向上計画などを推進してきた団体です。会長の網代正孝氏は我が武蔵野女子学院と同門の浄土真宗の寺院の住職をしておられます。これまでに、多くの一般市民をはじめ、中・高校生、大学生を募り、禿山同然となったフィリピンの山に木を植える活動を続けてきました。植林活動には日本人ボランティアだけでなく、現地フィリピンの小・中・高校生、大学生も参加しております。ですから、植林活動に参加することを通じて、草の根レベルでの国際交流をも体験することにもなります。こうした長年の経験をもとに、現地ダバオに「ボランティア体験学習宿泊研修所」を建設し、日本からのボランティアを専門に受け入れる体制を作り上げられました。今年の夏休み期間だけでも、すでに30名、50名といった規模の団体を6つも受け入れる予定となっています。その活動の一端は本年81日の産経新聞武蔵野版に紹介されましたので、御覧になった方もおられることと思います。

 そこで我が武蔵野女子大学も、この日本フィリピン・ボランティア協会と緊密に連携しながら、学生諸君にボランティア活動に参加する機会を提供しようということが、現代社会学部を構想する段階から話題となりました。とくに国際ボランティア活動というものは、いざ実行となりますと、慎重かつ莫大な準備作業が必要です。それは一大学の力をもってしては、ほとんど実行しがたいことです。そこで我々はこれまでかなり頻繁に日本フィリピン・ボランティア協会と連絡をとりながら、準備作業を進めてきました。本年一月には浜島学院長と小生が現地に赴き、事前の下準備をしてきたのも、最大の課題である安全性の確保がどの程度可能なのか、それを確認する必要があったからです。

 こうした準備作業をもとに、今回の実施に踏み切ったわけですが、いざ実施ということになりますと、今度は別の心配がでてきました。果たしてどれだけ参加希望者が現れるかという心配です。このフィリピンでの現地研修への参加は、あくまでも学生諸君、そして保護者の判断次第です。参加費17万円はすべて学生諸君、あるいは保護者の個人負担となります。果たしてどれだけの参加希望者がいるか、こればかりはまったく予想が立ちませんでした。ところが希望を集めてみましたら、幸いにも、15名の参加者がありました。これは日本フィリピン・ボランティア協会が、はじめから「理想の規模」といっていた規模に相当します。現地での移動には協会所有の車を利用しますが、協会所有の車では、日本人学生15名、フィリピンの学生15名、両方で30名が限度だからです。

 フィリピン、ミンダナオといいますと、危険地帯という印象を持った人がいるようです。参加する学生諸君に「御両親がよく許してくれたね」と尋ねると、「こういう経験は若いうちにしておいた方がよい」と積極的に勧めてくれたとのことです。「そうか。こういう親世代ができつつあるのだな」と改めて認識を新たにした次第です。

 こうした活動への参加に欠くことができないのが事前研修です。ただフィリピンに出かけていって木を植えてくればよいというものではありません。そこで本年度は私の講義「社会の基礎理論」のなかで、フィリピンの歴史、第二次世界大戦中から戦後にかけての経済状態、政治情勢をアジア全体との関わりのなかで説明し、森林伐採が進行した原因と背景、植林が必要な理由、我々が身近にできる紙資源の節約方法などを講義のなかに盛り込みました。またささやかな形であれ、資源保護活動の一端を学生諸君に体験して貰うために、こんな工夫もしてもらいました。どこの家にも使い古しのノートが残っているものです。たいてい最後の方にまだ使ってないページが残っています。それを切り取って集めて、手製のノートを作るという作業です。そして、そのノートの表紙にフィリピンの子供達に向けて何かのメッセージを英語で書いてもらいました。学生諸君はそれぞれ工夫を凝らしたメッセージを作ってくれましたが、その一部は後で述べるホームページ上で紹介してありますので、御覧になって頂きたく思います。

 さらに事前研修の一環として、日本フィリピン・ボランティア協会の網代会長を私の講義にお招きし、このNGOを立ち上げた経緯、活動の狙い、活動を展開してゆく上での苦労話を学生諸君に直接語って頂きました。それとともに、外務省からも経済協力の第一線で活躍している外交官にきていただき、「日本の経済協力」というテーマで特別講義を実施して頂きました。外務省に対しては、本学が女子大学であることから、できれば女性外交官を講師にお願いできないかと頼みましたところ、快く私どもの要望を受け入れて下さり、7月3日には外務省経済協力局国際機構課の高田真里事務官が来校され、グリーンホールで特別講義をしてくださいました。

 このような形で、フィリピンでの植林活動に向けてさまざまな準備を行ってきましたが、これらの一連の活動を将来につなげるため、新たにホームページを立ち上げ、そこにこれまでの活動記録を載せることにしました。そのURLhttp://intra/philippine/index.html(現在はhttp://www.musashino-wu.ac.jpに載っている武蔵野女子大学ホームページのトップページ上の「現代社会学部生、植林ボランティアのためにフィリピンへ」となっています)ですので、御関心をお持ちの方はそれを参考にしていただければと存じます。ただこの活動はまだ始まったばかりで、本番はこれからです。したがってホームページといっても、今のところは学内ラン内部だけにとどめてあり、学外に向けては公開しておりません。いずれフィリピンでの現地実習が終了した時点で、その時の経験をもとに、内容をもっと充実させる予定でおります。

 出発まであと数日を残すばかりとなり、学生諸君は目下のところ、フィリピンの学校を訪問した時に行う英語でのプレゼンテイションの準備に懸命になっています。彼女等にとっては、人前で英語を使って何かのプレゼンテイションをするということは、はじめての経験です。まだ原稿と首っぴきの状態で、なかなか生徒達の顔をみながら、目を見ながら語るというわけにはいきません。しかし、やがてはそういう段階を克服してゆくことでしょう。誰しも初めはそうだったことを思えば、大いな期待をもって見守るべき段階と考えております。