「フィリピン植林ボランティアのねらい」

潮木守一

 現代社会学部の構想を練るとき、この新しい学部にいかなる特色を盛り込むかをめぐって、さまざまなアイディアが出された。そのなかに一つが「体験学習」というアイディアであった。つまり、何かを学ぶにしても、教室のなかの講義だけで学ぶのではなく、教室外での具体的な活動に参加することを通じて学び取るという学習スタイルである。現代社会学部では、情報化、国際化、高齢化など、現代社会を巡る諸問題を取り上げるとともに、コミュニケーション用具としての英語、コンピュータにも、人一倍の力点を置いている。しかし問題は、その学習の仕方である。教室の中で学んだことを、頭のなかだけにしまっておくのではなく、具体的な生活場面で積極的に活用し、その経験を次の学習のステップに生かしてゆく、そういう「体験学習」を取り入れようとというのが、その主旨である。この「フィリピン植林ボランティア活動」への参加は、こうしたアイディアのなかから生まれたものである。

 フィリピンの子供達と並びながら、苗木を植えてゆくとしたら、どうしても子供達と英語で話をしなければならなくなる。ごくわずかな単語を並べただけでも意思が通じたという経験は、学生諸君にとっては大きな感動となり、さらに英語を学ぼうという原動力になるはずである。学生諸君は講義のなかで「地球温暖化を防ぐには、二酸化炭素の削減が必要であり、そのために必要なのは、少しでも多くの緑を増やすことである」と学ぶことであろう。しかし、これが単なる知識として、頭のなかに留まっているのでは意味が無い。ごく僅かとはいえ、地球温暖化を防ぐ活動に自分も参加したのだという経験は、学生諸君のこれからの生き方に、何らかの意味をもつことであろう。フィリピンの国を知り、自然に触れ、そこの住む人々と交わることを通じて、皮膚感覚を通じて、視覚、聴覚、嗅覚を通じて、フィリピンというものを、体のなかに刻み込むことであろう。それはアジアを理解し、世界を理解し、この日本を理解する上での重要な手がかりとなることであろう。

 あるいは、どうして自分達はこうした研修ツアに参加することによって、これほどさざまざな体験をすることができるのか、自問するなかで、「日本フィリピンボランティア協会」というNGOの活動の仕組みを知り、こういう活動を成り立たせている仕組みを理解することであろう。この経験はやがて将来、何らかの市民活動を立ち上げたり、それに参加した時の重要な参考になることであろう。

 われわれは2名の学生にビデオ・カメラを預け、われわれの活動を映像に納めてもらった。その結果、のべ12時間にわたる映像が収録された。帰国してから、この2名の学生には、この12時間分のビデオから20分間のプログラムにまとめてもらった。現在、ビデオ・カメラの軽量化の結果、かつてとは異なり、たった一人でもテレビ番組が作成できるようになった。それとともに、今ではビデオ・ジャーナリズムという新しいジャンルが登場しはじめている。今回の経験を契機に、将来現代社会学部の学生のなかから、自力でテレビ番組を作成するビデオ・ジャーナリストが育つことを、われわれは密かに期待している。

 我々はこの報告書とともに、武蔵野女子大学のホームページ上で、この活動の記録をすでに発表してきている。そのURLはhttp://www.musashino-wu.ac.jp/ushiogi/99phil/index.html である。このホームページは、まだ入学して1年もたっていない学生諸君が、テキストと首っ引きで完成までこぎつけたものである。ホームページの作成技術など、何の具体的な目標をなしに学習するのでは、力が入らない。しかし、このように1ページ1ページ出来上がるごとに、自分たちの思いを広く世界に向けて発信できるという体験は、コンピュータ・スキルの重要性、情報技術の重要性を学生諸君に教えてくれることであろう。

 このように、フィリピン滞在はわずか1週間でしかなかったが、出発前の事前研修、帰国後に開催した学内発表会、摩耶祭での展示、報告書の作成、ホームページ作成、ビデオ編集などなど、これらに要した延べ時間数は数え切れない。この全過程を全員一体となって着実にこなしてきた学生諸君には、心から御苦労さまでしたといいたい。今後はこの貴重な経験をこれからの大学生活に、いや人生のなかで、生かしていっていただきたい。最後に摩耶祭に訪れ、このフィリピン植林ボランティアの体験報告を見て、感想を書いてくださった、ある市民の方の声を引用することで、この文章を終えることとしたい。

「皆さんの触れ合った子供達が健康で元気に育つといいですね。皆さんの植えた木も早く大きくなって元気に育つといいですね。皆さんもフィリピンの子供達や木に負けずに、素晴らしい女性になってください。」