国際ボランティア体験学習の課題と問題点
潮木守一・ナシル・ジョマダル(
Morikazu Ushiogi, Naseer Jamadar )武蔵野女子大学 現代社会学部
キーワード:ボランティア、国際化、体験学習、参加動機、危機管理
武蔵野女子大学現代社会学部は1998年4月に発足したばかりの新設学部である。学部の目標は(1)我々が現に生きている現代社会が、どのような方向に向かって変化しているのか、それを学習すること、(2)来るべき国際化社会に備えて、英語によるコミュニケーションができる能力を身につけること、(3)情報化社会を生き抜いて行けるよう、コンピュータ・リテラシーを身につけること、(4)以上の能力を単に教室内での学習だけで習得するのではなく、ボランティア活動への参加、インターン・シップなどの実際的な活動を通じて、実際場面で活用・体験しながら学習する、ことにある。この4つの目標の中でも、学部としては重視しているのは、最後の体験学習の要素。過去1年半の間に、フィリピンでの植林ボランティアへの参加(1998年度、1999年度の2回実施)、シルバーパソコン体験教室の開催(参加学生20名)、生き甲斐健康財団、その他の団体・機関でのインターン、など、さまざまな機会を利用して実施してきた。今回は、これらの活動のなかから、フィリピンでの植林ボランティア活動を取り上げ、その実施方法、実施して得られた成果、実施上の問題点を報告することとする。
実施日程:1998年度、99年度とも7泊8日。詳細は別紙参照。
宿泊施設:
日本フィリピンボランティア協会が現地(フィリピン、ダバオ市)に建設した野外学習センターを利用。現地での交通手段、事前交渉などは、すべてJPVAのインフラに依存。プログラムの目標:異国・異文化の体験(ほとんどの学生が海外旅行がはじめて)。体験を通じての学習(講義のなかで、自然保護がいかに大切であるかを説いても、限界がある。現地に立って、禿山をみないと、自然破壊ということも理解しにくい)。英語学習(ドーミトリーの職員は日本語が堪能。しかし、この研修期間中はつとめて英語を使う。毎日夕食後は英語による、一日の体験報告。最終日には英語による報告会。一人3分ほどで、一週間の体験を報告する。聴衆はフィリピンの大学生、現地NGOのスタッフ。英語を使わざるを得ない環境に閉じ込めての強制学習。学生からの反発はある。「こんなことになるとは、思わなかった」。しかし、終了後は多くの学生は、よかったと評価)。ホームページ作成スキルの習得(参加者は帰国後、体験記録をホームページに載せる。情報教育は、目的なしに実施しても効果はあがらない。この作成過程でホームページの作成法を教える。ただし小人数。情報社会のなかでの情報発信を体験する。情報発信者の育成)。昨年の記録
http://www.musashino-wu.ac.jp/philippine/index.html)。記録ビデオの編集、作成(参加学生2名にビデオを持たせ、活動場面を撮影させる。延べ記録時間は10時間以上。そのなかから、20分間にまとめる課題を与える。ビデオ・ジャーナリズムの体験学習。編集操作の習得。自分たちで編集方針を立て、それにしたがって編集する機会の提供)。参加経費:17万円(16万5000円)。
募集・応募状況:入学者300名を対象に募集を行った。それに応募した者の数15名(13名)。
参加を妨げている要因:フィリピンは危険で、不衛生という固定観念(両親ばかりでなく学生のなかにも存在する)。
「わざわざ自腹を切ってまで、他人のために働くことはない」。大学生はいまやサービス産業化、パートタイム労働化のなかに組み込まれた存在。アルバイト体験。無償のボランティアに対する「いかがわしい」という見方。「その時間、アルバイトした方が、はるかに得」。シルバーパソコン体験教室(3月末の4日間実施)の事例からみる限り、学生ボランティアの安定的確保はそれほど楽ではない。第2回目(9月9、10日)を募集したが、応募者まったくなし。その理由は、その時期は夏休みの真っ最中で、遊び盛りの時期。このような時期に無償奉仕をする学生はいない。
両親の反応:「フィリピンのような危険で、不衛生な所へゆくことは、絶対にだめ」、「そういう体験は若い時でなければ絶対できないので、ぜひ参加しなさい」という2つの対極的な態度。その中間にさまざまなタイプがある。ヨーロッパ研修、アメリカ研修は親の支持がえやすい。アジア研修はそれが困難。ただ、親のなかには、普段行けないところへゆく計画を、大学が立てたのだから、この機会を利用し、ヨーロッパ、アメリカは自分でゆけばよいという見方もある。
学生自身の参加動機:「ボランティアを実際にやってみたい。これまでそういう機会がなかったので」、「海外ははじめて。異文化体験をしてみたい」、「これを機会に、自分を変えようと思った。親元を離れて、自宅以外の所で寝るのは、これがはじめて」、「もともと、珍しいところへゆくのが好き」、「高校生の時に、大学案内にこのフィリピン植林ボランティアのことが載っているのを知った。それならばと思って、この学部を受験した。入学した時から参加することを決めていた」、「去年参加した先輩から話を聞いて参加したくなった」。参加動機はさまざま。
費用負担:全額を両親が負担、全額を学生自身がアルバイトで稼ぎ出した。この二つの対極の間にいくつかのタイプがある。
参加学生の受け止め方:「毎日が刺激に富み充実していた」。「毎晩、夕食後に開かれる英語によるミーティングさえなければ、こんなに楽しいことはない」。
研修終了後の効果:参加者の多くが、クラスの活動のリーダーとなっている。英語を話すことに積極的になっている。しかし、その反面、平凡な女子大生スタイルに埋没した者もいる。
大学管理者サイドの反応:積極的推進派と消極派。消極派の主たる理由は「もし何かがあったら責任がとれない。大学の評判に傷がつく」。その背景には「女子大」という既成観念がある。「親から預かった大事なお嬢さんに、もしものことがあったら、どうするか。大学の責任範囲は、朝の登校時から、夕方の下校時までのこと。夕方になったら、何も起こらないうちに、どんどん早く家に帰らせる。それ以上のことは、大学には求められていない」
危機管理:学生は「教育研究災害保険」と旅行会社の「AIU海外旅行障害保険」(障害・死亡・後遺障害、3,000万円)に入る。果たして十分かどうかは不明。他大学の事例をみる限り、大学側はあまりコミットしていない。旅行業者を主催者とする研修旅行の事例が多い。大学側はそれを紹介するだけ。募集の責任主体は旅行業者、参加の責任主体は個々の学生。あるいは、こういう方式が大学にとっては一番責任が軽いのかも。ただし、それではプログラム内容は、旅行業者まかせ。夕食後の英語による報告会などは実施できない。