名古屋大学大学院国際開発研究科
潮木守一
修士課程 塚越由美子
1996年に出版されたOECD、Development Cooperation1995によると、同年の開発途上国への政府開発援助(Official Development Assistance:以下ODA)は1830.8億ドルに達しており、今やODAを通じての資金の流れは、先進国と開発途上国との国家間関係を規定する上で、無視しがたい要因となっている。このようなODAが、どの援助供与国からどの援助受取国に流れているのか、どのような部門、分野に援助が行なわれているのかなどを明らかにすることは、援助国と被援助国との相互関係を理解する上で欠くことができない。本研究では、援助供与国と受取国との関係に注目することで今日のODAの現状分析を試みた。
援助供与国の援助政策のあり方の一つとして、「水撒き政策」(watering can policy)というタイプがあることはよく知られている。つまりどこかの特定の国に限定して、集中的に援助資金を投入するのではなく、できる限り広い範囲から援助すべき国を選び出し、それらの国々に広く浅く援助資金を配分するタイプの援助政策である。特定国めがけて集中的に援助資金を投入する政策には、それなりの政策意図が含まれているが、それと同様、広い範囲の国々に浅く薄く配分する援助政策には、それなりの政策意図が込められている。
このように援助供与国がそれぞれの政策意図のもとに援助政策を展開するのに対応して、被援助国は被援助国の立場から、援助の受け入れ政策を展開しているとみることができる。つまり、ある国は幅広くさまざまな供与国から援助を受け入れるだろうし、またある国は特定国から集中的に援助を受け入れることであろう。援助供与国にはそれなりの政策意図があるのと同様、被援助国にはそれなりの政策意図を含んだ受け入れ政策がありうる。援助供与国を多様化させるにせよ、単一化させるにせよ、いずれの場合とも、その背後には被援助国としてのそれなりの政策意図が反映されているとみることができる。
さらにまた、援助供与国といっても一様ではなく、その時代その時代で、それなりの色彩を帯びた主要な援助供与国が存在している。受け入れ国から見れば、そのなかのどこの国から援助を受け入れ、どこの援助は受け入れないかは、その国の国際的立場の一つの表現形態とみることができる。たとえば東西対立時代には世界は大きく分断されており、アメリカからの援助を受け入れるか、それともソ連からの援助を受け入れるか、さらにはまたその両方からの援助を受け入れるか、それによって世界は大きく色塗りされていた。
東西対立の消滅した現在、アメリカ援助圏対ソ連援助圏という色分けは消滅したが、それに代わる別の被援助国の色分けが出現する可能性がないとはいえない。被援助国の援助受け入れ行動からみた場合、世界はどのような色分けになっているのであろうか。たとえばアルーバが1990年から1994年までに受け取った二国間援助は、もっぱらオランダからのODAだけである。他方、ジブチは援助を主にフランスとイタリアの2ヶ国から受け取り、スーダンはフランス、日本、イギリス、アメリカの4ヶ国からほぼ同程度の割合で受け取っている。つまりODAを一国から集中して受け取る場合もあれば、さまざまな国から受け取る場合もあるように、援助受取国の援助を受け取る形態も、さまざまである。
そこでこの分析では、さまざまな開発途上国を、そのODAの受け取り方において類型化できるのではないかという仮定に基づいて、援助受取国をどの援助供与国からどの程度の割合で受け取っているのかを基準として類別化してみることを試みた。
分類の手法としてはクラスター分析を用いた。この手法は3変数以上の数値変数の多次元的な関係を見るのに適しているからである。
2.方法(クラスター分析の概要)
今回の分析ではデータのソースとして、 OECD(Organization of Economic Co-opearation and Development:経済協力開発機構), Geographical Distribution of Financial Flows to Aid Receipts: 1990-1994 を使用した。この報告書は毎年出版されるもので、二国間、また多国間の政府開発援助の被援助国への資金の流れを包括的に記載している。
この報告書は1994年に改定がおこなわれ、それまでのDAC(Development Assistance Committee:開発援助委員会)援助受け取り国リストが「新DAC援助受け取り国リスト」となった。このリストはパート1とパート2にわかれ、パート1では、DACによって開発途上国として認定されている170ヶ国があげられている。パート2には、DAC基準のもとでは途上国(パート1)とはみなされないが、現在援助を受け取っている旧ソビエト連邦、中、東欧諸国計13カ国がパート2の国々として統計が集められている。パート2の国々に対する援助はODAには計上されず、Official Aid (OA)として計上される。OAとはDACによって定義されたODAの基準を満たし、なおかつ資金が直接上記のパート2の国々に流れるものを指す。ただしソビエト連邦から独立したものの、いまだに経済状況が低迷している中央アジア5カ国はDACリストパート1に加えられている。対象国はウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンである。
この改定をうけて報告書の全体の構成も若干変更され、現在はセクションA、B、Cの3つのセクションから成る。セクションAは過去7年間にわたってDACリストにあげられている各援助受け取り国、各地域、各年度ごとにDAC援助供与国から受け取ったすべての資金の累積額が載せられている。この資金の内訳は @ ODA /OA:純支払いベース AODA /OA:コミットメントベース B 資金の流れの総計:純支払いベースとなっている。セクションBはDACリスト・パート1の国、セクションCはDACリスト・パート2の国のデータを各国別に載せている。この2つのセクションでは大きく6つの項目に分かれている。各項目は @純所得総額 A純ODA /OA総額 B総ODA /OA総額 C贈与 Dセクター別ODFコミットメント(%)E諸指標 となっている。 また@からCの項目はそれぞれ二国間と他国間の援助資金の流れが別個に記載されている。なお具体例としてセクションBの1頁(アフガニスタン)を表1としてあげた。
本分析は新DACリスト・パート1にあげられている170カ国を分析対象にした。パート2の国々は、受け取る援助額がDACによってODAとは計上されていないので今回の分析から除外した。
具体的には、上記の170カ国1ヶ国ずつについて1990年から1994年の純ODAの累積額を各援助供与国別に百分率化した。そして援助総額の供与国別構成比率によって援助受け取り国を分類化してみた。本分析では二国間ODAに限定した。
純ODA額(netODA)とは、ある援助提供国からある援助受入国に対して提供されるODAから、過去にODAとして提供された部分のうち、その年度内に返済された部分を差し引いた残りの実質支払い金額のことである。つまり各年度ごとの2国間での実質的なODA資金の流れをあらわしており、返済額が受入額を上回る時には、マイナスの数値となる。現に今回使用したデータでは値が負となっているものも含まれているが、それらを除外することなく、そのまま分析をおこなった。なぜなら負の値が大きければ大きいほど返済額が大きいことを意味するので、これも援助供与国と受取国との関係の強さを表していると見られるからである。
つぎに今回使用したクラスター分析の大まかな説明をする。使用した統計ソフトはSPSS for Windows 5.0.2版 (1993年)である。
クラスター分析とは、お互いに似ているものどうしを一つのかたまり(cluster)にまとめてグループ化する分析手法である。
この手法には、二つのデータが似ているかどうかを判断するための「距離」と、それをクラスター化していく「方式」にいくつか種類がある。
まず似ている程度を測る方法として
などがあるが、これらは一般的に「距離」と呼ばれている。本分析では変数が百分率によって標準化されているので、短い距離が過小評価されないように1のユークリッド距離を使用した。
つぎに似たものどうしをまとめる方法だが、これは二つのクラスター間の距離をどのように決めるのか、ということである。
クラスターが一つの個体(データ)から成り立っている場合は個体と個体との距離がクラスター間の距離となる。しかし、クラスターの成分が2個以上の個体から構成されている場合、クラスター間の距離の決めかたが問題となる。この距離の決めかたには多くの方法があるが、今回使用したソフトには以下のものがある。
本分析ではグループ間平均連結法を用いた。
クラスター分析の結果はデンドログラム(樹形図)によってあらわされる。デンドログラムの上部もしくは下部に現れる距離をあらわした線がクラスター間の相対的距離を示している。その相対的距離が近ければ近いほどクラスター間、またはクラスター内の個体どうしは類似性が高いというわけである。したがってデンドログラムによって距離に近いものどうしが視覚的に表されることになる。
クラスターの個数は事例をあらわしている軸に平行にデンドログラムを切ってみることによって決められる。つまりどの位置で平行線をいれるかによってクラスターの個数は左右されることとなる。だが本分析においてはクラスターの個数、つまりいくつの分類ができるのかということが問題となるのではなく、援助受取国の特徴を最もよくあらわすクラスターに分けることがもっとも重要となる。したがってどのレベルからどのレベルをひとつのクラスターにするのかを決めるinclusion levelの設定が問題となる。
このようにして集計した結果は以下の通りである。
図1のデンドログラム(樹形図)はクラスター分析の結果を表したものである。これは援助受取国相互の類似性の強さを表している図である。本分析ではデンドログラムに表れているクラスターをもとに援助受取国を、受け取っているODAの供与国別構成比率をもとにタイプわけをした。
本分析では援助受取国が大きく4つのタイプに分けられている。
1つめのタイプはODAの多くを一国の援助供与国から受け取っている場合で、一国圧倒型とでも呼べるタイプである。具体的には、オランダ型、ニュージーランド型、イギリス型、オーストラリア型、アメリカ型、イタリア型、日本型、スペイン型、ポルトガル型、フィンランド型、ドイツ型、合計11型を設定できる。2つめのタイプはイギリス・カナダ・日本・複合型で、ここに分類された援助受取国はこれら3ヶ国からおもに援助を受け取っている。3つめのタイプは混合型で、多数の国からODAを受け取っている援助受取国がここには分類されている。4つめのタイプは返済型である。この型に分類された国々は借款の返済が多くを占めている国である。このタイプではどの援助供与国に返済をしているのかということよりも、返済額が大きいことで分類されている。タイプ別にわけられた具体的な援助受取国は表4にまとめてある。
それでは具体的な分析結果を見てみよう。
オランダ一国圧倒型
オランダ一国圧倒型に分類できるのは、アルーバ、オランダ領アンティル、スリナムの3ヶ国がである。この3ヶ国はデンドログラムの上でも近い位置に置かれており、類似性が強いことがわかる。具体的に数値をみると、アルーバとオランダ領アンティル2国は、援助の100%をオランダ一国から受け取っている。スリナムは83.8%をオランダから受け取っている。なお、アルーバはオランダ領アンティルに属しており、スリナムは旧オランダ領である。
ニュージーランド一国圧倒型
この型に属するのは、ニウエ、トケラウ諸島、クック諸島の3ヶ国である。具体的な数値を見てみると、やはりニュージーランド一国から多くの援助を受け取っている。いずれもニュージーランド領である。
イギリス一国圧倒型
イギリス一国圧倒型に属するのは7ヶ国であり、これらの国は援助の大部分をイギリス一国から受け取っている。地域的にはフォークランド諸島やジブラルタル、ヴァージン諸島というように分散しているが、いずれもイギリスの歴史と関わりがある地域である。
オーストラリア一国圧倒型
オーストラリア一国圧倒型にはナウルとパプアニューギニアの2ヶ国が属している。受け取ったODAの大半はオーストラリアからのものである。地域的には南太平洋諸島である。
アメリカ一国圧倒型
ここには29ヶ国が分類され、大きなまとまりをなしている。具体的な数値を見てみると、キルギスやオマーンのように日本からも援助を相当程度受けている国もあるが、ほとんどはアメリカから一番多くの援助を受けている。地域としては中米、カリブ海諸国、中東諸国、エジブト、イラク、イスラエル、南アフリカなどがあげられる。
イタリア一国圧倒型
イタリア一国圧倒型として5ヶ国が分類されている。このタイプはイタリアから多くの援助を受け取っている。しかしマルタのように受け取りODAの97.6%がイタリアからのものである国もあれば、シエラレオーネのように39.7%しか受け取っていない国もあって、このタイプがODAをイタリアから多くもらっている国から構成されているといっても、その程度には幅があることが分かる。地域的には南米(アルゼンチン)、西アフリカ(シエラレオーネ)、アフリカ北部(リビヤ)、地中海(アルバニア、マルタ)と分散している。
フランス一国圧倒型
この型は27カ国から構成され、フランスからもっとも多くの援助を受け取っている。地域としては旧フランス領やフランス語圏アフリカ、フランスの海外県・海外領土(DOM/TOM)が多い。具体的な数値をみていくと、援助を圧倒的にフランスから受け取っている国もあれば、そうでない国もある。たとえばセイシェルのようにフランスから37.4%、アメリカから21.3%受け取っている国もあれば、また北朝鮮のようにフランスから44.3%、ドイツから37.6%と、援助を受け取る割合として大きく変わらない国も見うけられる。
日本一国圧倒型
この日本一国圧倒型には23カ国が分類され、これらの国々にとっては日本が最大の援助供与国となっている。この日本型の特徴は、日本一国だけから多くの部分のODAを受け取っている国がないことがあげられる(ブルネイとミャンマーのみ受け取り援助の85%以上を日本から受け取っている)。この日本型にあげられている諸国は日本からの援助受け取りの平均の割合は55.5%となっている。したがってこれらの国は日本以外の援助供与国からも相当程度の援助を受け取っていることになる。たとえばカタールはフランスから50%、日本から44.3%の援助を受け取っており、具体的な数値を見る限りこの国はフランス型に近い国である。またトンガはオーストラリアから38.9%、日本から38.5%の援助を受け取っている。同様の傾向を見せる国としてはフィジーがオーストラリアから42.9%、日本から29.2%の援助を受け、バヌアツはオーストラリアから28.7%、フランスから27.1%、日本から16.1%と、むしろ日本から受け取っている援助の割合は低くなっている。デンドログラムでこれらのような国々が日本一国から援助の多くを受け取っている国々と近い距離に位置しているのは他の点で類似性があるためである。
スペイン一国圧倒型
スペイン一国圧倒型として分類された国は4カ国である。ここにあげられた国は援助の多くをスペインから受け取っているが、その割合が50%を越える国は赤道ギニア1ヶ国のみで、ほかの3ヶ国は他の援助供与国からも分散して受け取っている。たとえばウルグアイはフランスから10.1%、ドイツから13.5%、イタリアから19.2%、日本から15.9%、そしてスペインから27.2%と5ヶ国からバランスよく援助を受け取っている。ここにあげられた4ヶ国ははすべて旧スペイン領である。
ポルトガル一国圧倒型
ここに分類されたのは4ヶ国であるが、ポルトガルからの援助受け取り比率は他の一国圧倒型と比べて低く、最高でもサントメアンドプリンシペの44.5%である。またティモールはベルギーから27.3%、日本とポルトガルから36.4%ずつ3ヶ国から同程度の割合で援助を受け取っている。
フィンランド一国圧倒型
フィンランドからのみ援助を受け取っている国はウォリスアンドフツナ一国である。
ドイツ一国圧倒型
このドイツ一国圧倒型には、ドイツから75%以上の比率で援助を受け取っている2ヶ国が分類されている。この2ヶ国はバミューダとカザフスタンである。
カナダ・日本・イギリス複合型
このタイプに分類されている国々はカナダ、日本、イギリスからほぼ同程度、またはその中の2ヶ国(日本、イギリス)から多くの援助を受け取っている国々である。このタイプには9ヶ国があげられているが、その多くはイギリス連邦に属している。またドミニカ、グレナダ、ビンセント・グレナダ島、セイントルシアはフランスからも17%以上の援助を受け取っている。このフランスからも援助を受け取っている国の中ではセイントルシアが最も多く受け取っており、その比率は37%である。
混合型
このタイプに属する国は、さまざまな国から援助を受け入れている。その数は、合計42ヶ国におよんでいる。このグループはとくにある特定国1国から圧倒的に援助を受け取っているというわけではない。しかし表2のクラスター]Tにあげられているボリビアからブータンまでの21ヶ国は、援助の多くを日本、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカなどから受け取っている。たとえばボリビアは援助をドイツから18.7%、日本から18.6%、アメリカから23.9%の割合で受け取り、マラウイはドイツから21.8%、日本から19.9%、イギリスから20.9%、アメリカから13.7%受け取っている。また数は少ないが、日本からおもに援助を受け取っている国もある。たとえばジョルダンは日本から45.8%、ドイツから22.5%、アメリカから12.6%受け取り、インドは日本から43.2%、ドイツから16.5%の割合となっている。同様に援助の多くをドイツから受け取っている国もこのグループには含まれている。このような国はイラン、ベネズエラ、旧ユーゴスラビア、チリ、コロンビア、ドミニカ共和国である。とくにはじめの3ヶ国は40%以上の比率でドイツから援助を受け取っている。
ブルンジ、ザイール、ルワンダは援助をおもにベルギー、フランス、ドイツから受け取っている(ルワンダはアメリカからも20.7%と比較的高い割合で受け取っている)。またエクアドルはフランス、ドイツ、日本、スペイン、アメリカからおもに援助を受け取っている。
このタイプVで特徴的なのは、スウェーデンから比較的高く援助を受け取っている国が含まれていることである。圧倒的にスウェーデンから援助を受け取っている国はないが、同国から相当程度(受け取り比率で8%以上18.9%以下)受け取っている援助受取国は15ヶ国にのぼる。
返済型
この返済型には、借款の返済比率が比較的多い国が属している。これらの国はいずれも上位中所得国か高所得国としてみなされている国々である。地域的には東アジア、南米、中東の国々であり、アフリカや南アジア、ヨーロッパ、中央アジアの国はこの型にはあげられていない。
以上細かく一つ一つの型についてみてきたが、大きなタイプ別では、一国圧倒型が110ヶ国、イギリス・カナダ・日本複合型が9ヶ国、混合型が43ヶ国、返済型が8ヶ国と分類された。
地域別分布をみるために、図2として世界地図を型別に色分けしたものをつくり添付した。
図表一覧
図1 クラスター分析の結果
図2 世界地図塗り分け
表3 タイプ別構成比率
表4 タイプ別開発途上国分類
統計データ
本研究において使用したデータ